2-2.ギブズ自由エネルギーとはなにものか?(化学変化の向きを決めるエネルギー)

化学変化は、物質の集まり(物質系)が全体として安定になる向き、つまりエネルギーの小さくなる向きに進みやすい。たとえば、どちらも炭素原子6個、水素原子12個、酸素原子18個で表される次の2つの物質系

(A)       1 molC6H12O66 molO2

(B)        6 molCO26 molH2O

のうち、エネルギーの値が、(A) > (B) なら、(A) (B) の変化が起こりやすい。 では、このエネルギーとはなんだろうか?

 

   エンタルピー

ある物質系に、一定圧力pのもとで熱エネルギーqを与えたとする。qの一部は系の温度を上げて内部エネルギーの増加ΔUをもたらし、体積変化分ΔVは外部に仕事をする為、

q = ΔU + pΔV

と書ける。

物質系の持つ熱エネルギーをH(エンタルピー)で定義し、エンタルピーの変化量をΔHとすると、系の受け取る熱エネルギーは外部から与えられる熱エネルギーqになるので、

ΔH = ΔU + pΔV

と表す事が出来る。

高校の課程では反応熱は発熱反応を+に吸熱反応を−に表現していたが、エントロピー変化はあくまでも系の持つ熱エネルギーなので、発熱反応は ΔH < 0 、吸熱反応は ΔH > 0 と表現される。

CH4 + 2O2 = CO2 + 2H2O + 981 kJ

CH4 + 2O2 CO2 + 2H2O ΔH0 = -981 kJ mol-1

上記の熱化学方程式は卒業し、下記のように、まず反応式を書き、生成系(右辺)の物理量から原系(左辺)の物理量を引いた値を添える書き方を採用して欲しい。ちなみに、ΔH0の「0」は標準状態(1気圧、25℃)を示し、単位のmol-1は係数が1の物質1 mol あたりの量である事を示している。

一般に化学変化はΔH0が大きな負の値を持つ向きに進みやすい。しかし、エンタルピー変化だけでは説明できない事象も存在する。

 

   エントロピーと自由エネルギー

硝酸アンモニウムNH4NO3を水に溶かすと吸熱反応を示す。しかし、外部からエネルギーを加えなくとも、水に入れた硝酸アンモニウムは時間が経つと溶けている。この様な現象を説明する為にエントロピーと自由エネルギーという概念が導入された。

エントロピー S は物質の乱雑さを示す尺度として定義された。

自分の部屋の状態を考えてみよう。整理された状態というのはかなり努力しないと維持する事は出来ない。掃除をサボっているといつのまにか足の踏み場も無い状態になっている。整理された状態は極めて不安定でエネルギー状態が高いと考えて良い。

物質系の世界でも事情は同じで、きちんと整理された状態よりも、乱雑な方が安定(すなわち、エネルギー状態が低い)である。ここで、乱雑さを示す度合いをエントロピーSとして定義する。エントロピーSは、J K-1 の単位を持ち、絶対温度との積TSがエンタルピーHとともに化学変化の向きを決めるエネルギーになる。Hは減った方が、Sは増えた方が化学変化には好都合だから、変化の向きは

ΔG = ΔH – TΔS

で定義されるΔGの符号と大きさで決まる。Gをギブズ自由エネルギー、ΔGをモルギブズ自由エネルギー変化という。物質系がエネルギーを失う方向(すなわち、ΔG < 0 となる方向)に反応は自発的に進む

 

例題 6

温度が300Kのとき、ΔH0 = -100 kJ mol-1ΔS0 = -100 J mol-1 K-1 の反応と、ΔH0 = +10 kJ mol-1ΔS0 = +200 J mol-1 K-1 の反応ではどちらが進みやすいと予想されるか。

 

解答

 

   生成自由エネルギー

ギブズ自由エネルギーの絶対値を知る手だてはない。しかし、化学反応前後のギブズ自由エネルギーの差分を知る事で、反応がどちらの方向に進むのか、見通しが立つようになる。そこで、標準状態で一番安定な単体を原点に定め、単体から物質1 molを生成する反応のΔGを測り、これを各物質の標準モル生成ギブズ自由エネルギーと呼び、ΔfG0で表す。(添え字のfformationの意味) この定義により、O2(g),H2(g),N2(g),Na(s),Fe(s),Cu(s),Br2(l),Cl2(g) 等のΔfG0は全て0 kJ mol-1 になる。ちなみに()内のgは気体状態を、sは固体状態を、lは液体状態を表す。

なお希薄な水溶液中のイオンについては水素イオンH+ΔfG0を原点(ΔfG0= 0 )にとり、他のイオンはそこからの相対値で表す。の値は物理化学のテキスト・理化学辞典等に掲載されているので、この値の使い方を知っていると良い。

反応におけるギブズ自由エネルギー変化ΔGは ΔG = (生成系のΔfG0の合計)(原系のΔfG0の合計) で概ね算出できる。

 

例題7

反応 CO(g) + H2O(g) = CO2(g) + H2(g) が自然に進むのは右向きか左向きか判定せよ。ただし、CO(g),H2O(g),CO2(g) ΔfG0値は、それぞれ、-137.2,-228.6,-394.4 (kJ mol-1)である。

 

解答

 

例題8

グルコースC6H12O6ΔfG0(-910 kJ mol-1)から、このページ冒頭の物質群では (A) (B) の変化が自然な向きであることを確かめよ。H2O(g),CO2(g) ΔfG0値は、それぞれ、-228.6,-394.4 (kJ mol-1)である。

 

解答

 

この様に生成自由エネルギーのデータを知ることにより、大体の反応の向きを決めることができる。ただし、これらのデータは標準状態で1molの物質がもつエネルギーを扱っているので、濃度の変化などは一切考慮されていない。混合物を扱う現実的な系を考える時、濃度の影響も見逃すことは出来なくなってくる。

 

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