International RNase H meeting 1998 報告
平成10年10月18日〜20日にフランスのビアリッツにおいて開催された International RNase H meeting 1998(副題:Ribonucleases H: Tools and Therapeutic targets)に出席した。この会議は1990年に始まり、今回は5回目を数える。リボヌクレアーゼH(RNase H)はRNA と DNA のヘテロ二重鎖の RNA 部分を特異的に切断する酵素であり、広く生物界に存在する。RNase Hの機能は DNA 複製に関与するといわれているが、その機能は未だにはっきりとしておらず、その解明は懸案となっている。また、エイズウイルスなどのレトロウイルスの逆転写酵素の一部としてウイルスの増殖に必須であることから、エイズの治療という観点からも注目されている。
会議は一日目がレトロウイルスの逆転写酵素の RNase H 関係、二日目が真核生物の RNase H とアンチセンス法について、最終日が原核生物の RNase H について、全部で40件の発表が行われた。参加人数は60人程であった。逆転写酵素の RNase H に関しては、Arnold らのグループが基質との複合体の立体構造について講演した。His539 が基質の近くにきていて触媒反応に関与していることが示唆されたり、RNA の 2'-OH と酵素が接していることが示されたりして、大変興味深い知見が得られていた。また、Marqusee のグループにより、MMLV のこの His638 (HIV の His539) に二個目の Mn が結合し、酵素活性を阻害することが示唆された。そのほか、ウイルスの複製における RNase H 活性の役割や配列特異性などについて様々な報告がなされた。細胞由来の RNase H については、今まで解析のほとんどされていなかった第二の RNase H (RNase HII)について、筆者らのグループを含めて相次いで報告された。その内容は筆者にとって大変勉強になるとともに、RNase HII の研究が今後急速に進展することが予感された。真核生物の RNase H2 は遺伝子をクローニングして得られたリコンビナントの酵素には活性がみられず、活性に他のコンポーネントが必要である可能性もあり、興味深い。また、酵母の RNase H2 は細胞周期の G2 期に発現しており、DNA 修復との関連が予想され興味深い。アンチセンスDNA については、様々な改良法において、RNase H がどのように作用しているかの報告が行われた。その他、IC Biomedical 社のグループにより、高度好熱菌の RNase HI は大腸菌 RNae HI に比べて一本鎖の核酸への親和性が強く、DNA と RNA とのハイブリダイゼーションの促進能が非常に高いことが報告され、興味深かった。二日目には懇親会がシーフードレストランにおいて行われ、新鮮なエビや貝類の盛り合わせや肉料理などをワインとともに楽しみながら参加者と歓談した。
ビアリッツはフランスの大西洋側のスペイン国境のすぐ近くに位置し、フランス西海岸最大のリゾート地である。かつては王侯貴族の保養地であり、現在も高級ブティックが建ち並び、貴族の別荘であったと思われる La Palais という一泊 3000 フラン(約7万円)もするホテルが威容を誇っている。会議が行われたのも会議場を兼ねているカジノであったが、発表が最終日だったので遊べなくて残念であった。夏は海水浴客でにぎわうそうだが、季節外れのため閑散としており、みやげ物屋も閉まっていて買物には不自由した。海は比較的波が荒いのでサーフィンが盛んであり、午後には多数のサーファーが現れてサーフィンを楽しんでいた。会議終了後、付近を観光するバスツアーが企画されたので参加した。バスク地方ののどかな風景を見物し、オープンカフェで名物のバスクケーキを楽しんだ。また、サンジャンドルーズという町を訪れ、ルイ16世とマリーアントワネットが結婚式をあげた壮麗な教会を見物した。この町は教会の観光客でにぎわい、みやげ物屋も多数あったが、自由時間が一時間足らずしかなかったので買物できず残念であった。短期間であったが会議で収穫もあり、また日本ではあまり知られていない地方に足を踏み入れることができ、充実したフランス訪問であった。
サンジャンドルーズにて