RNase H 2000 報告

 平成12年 9月18日〜平成12年 9月20日にシアトルにおいて開催された 第6回 International RNase H meeting (RNase H 2000)に出席した。今回の会議で最も注目された報告は、Sarafianos博士によるエイズウイルスの逆転写酵素とpolypurine tract RNA/DNAヘテロ二重鎖との複合体の立体構造についての報告であった。エイズウイルスの遺伝子RNAから逆転写酵素によりDNAが合成された後、RNA部分は逆転写酵素のRNase H ドメインによって分解されるがpolypurine tract配列は切断されずに残り、引き続き行われる相補鎖DNA複製の際のプライマーとして働くことが知られている。polypurine tract配列がなぜ逆転写酵素のRNase Hにより切断されないのか不明であったが、立体構造が決定されたため、その機構が明らかとなった。またこの報告はRNase Hと基質のRNA/DNAとの結合部分の立体構造を初めて明らかにしたところも画期的である。申請者は基質の特定のリン酸基がRNase Hの124番目のヒスチジン残基を助けることによって酵素反応を促進していることを見いだしている(Biochemistry, 39, 13939-13944, 2000)。今回の会議ではこれについては発表しなかったので、Sarafianos博士にこの結果についてお話したところ、大変興味をもっていただいた。実際の立体構造においてもそのリン酸基とヒスチジン残基が近接していることも教えて頂き、立体構造的な裏付けを得ることができたので有意義であった。Sarafianos博士に対しても、立体構造と生化学的データがよく符合するという有用な情報を提供できたと考えている。このような一般に未公開の情報を交換できたことは、お互いの研究及びRNase H研究の進展に有意義であり、大きな国際交流の成果が得られたと考えている。また、逆転写酵素のRNase H活性を阻害するRNAアプタマーの探索について報告があった。申請者はペプチドやRNAのライブラリーを用いてRNase H活性を阻害するペプチドやRNAアプタマーの探索を行っているので、BIAcoreを用いた選択法など大変参考になった。さらに、前回申請者らのグループを含めて報告が相次いだ第二の RNase H (RNase HII)について、今回も多くの報告があった。なかでも、申請者らのグループが研究を進めている始原菌RNase HIIについて、立体構造及び酵素機能に必須な残基の同定について報告があった。そこで、そのグループと未発表の結果も含めて情報を交換したので、お互いに有益な情報を得ることができ、今後の研究に大いに参考となった。申請者は進化工学的手法を用いたRNase Hの活性向上について報告を行った。熱安定性と活性との関係に興味が持たれているが、熱安定性の解析を変性温度のみから評価していたため、活性の測定温度において熱安定性を解析すべきであるとの指摘を受け、大変参考になった。全般的に興味深い報告が多く、申請者にとって大変参考になるとともに、進行中の研究についていち早く情報交換することができたので、充実した国際交流になったと考えている。この会議に参加することによりRNase H研究の進展に貢献できたと考えており、国内における今後の応用研究の発展にも寄与することが期待される。



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