タンパク質を有効成分とするバイオ医薬の市場は近年急成長しています。しかし、全てのタンパク質が薬として利用できるわけではなく、タンパク質の中には副作用が強いものや生体内で不安定なため、効果が出にくいものもあります。そこで、遺伝子工学的あるいは化学的にタンパク質に修飾を施すことで、その有用性や利便性を高める試みが行われてきました。ポリエチレングリコール(PEG)は、化学修飾剤として最も広く利用されている合成高分子で、PEGをタンパク質に修飾すると見かけ上の体積が増加し免疫原性が低下します。その結果、体内動態が変化し薬理効果を高めることができます。
一方、レシチンなどの脂質を修飾剤として用いたバイオ医薬も研究されています。タンパク質としては、活性酸素(スーパーオキシドアニオン)を消去できる酵素のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が主に用いられてきました。これまでに、レシチン修飾したSODでは、細胞親和性と血中滞留性が増大することや多くの疾患モデル動物で薬理活性が高まることが報告されています。また当研究室でも、レシチン修飾したSODの生体成分との相互作用や培養細胞での活性酸素消去のメカニズムを検討し臨床利用の可能性を探っています。このレシチン修飾技術は様々なタンパク質にも応用展開できると考えられ、今後新規のバイオ医薬あるいは改良型バイオ医薬(バイオベター)の創出が期待されます。